『アフリカの印象』(レーモン・ルーセル著)/いとうせいこう氏

NIKIギャラリー册は、
「本と遊ぶ」をテーマに、
楽しい試みを始めました。
「今月のおすすめ本」
『册』の書籍編集を手がけた松岡正剛氏を皮切りに、
あらゆるジャンルの方々にリレー方式で引き継がれて
いきます。本が人を、人が本をつないでいく。
NIKIギャラリ−册の棚の中で、新たな本の世界が
繰り広げられています。
今回、「おすすめ本」のリレーバトンを受け継いだのは、
活字や舞台・音楽など、多方面で幅広い表現活動を
展開しているクリエーター・いとうせいこうさんです。
『アフリカの印象』レーモン・ルーセル著(白水社)
A:Les letters du blanc sur les bandes du vieux billard(古いビリヤード台のクッションに書かれた白墨の文字)
B:Les letters du blanc sur les bandes du vieux pillard(老いた盗賊についての白人の手紙)
「A」と「B」にはたった1文字の違いしかない。「billard」と「pillard」、その頭文字である「b」と「p」。それだけの違いが文の異なる意味を生む。ルーセルはこの2つの文を徹底的に解体し、長編小説『アフリカの印象』を書いたのだった。
中に出てくるのは「チターを弾く大みみず」「腹をへこませることで音を反響させ合う六人の兄弟」「自動的に絵を描く大仰な機械」などなど、どれも奇怪なイメージ群である。
しかし、『アフリカの印象』は幻想小説ではない。ルーセルにとってそれは言語それ自体が産出するリアリズムであった。内面を排除した言葉の運動であり、文学を科学であるかのように取り扱う方法だったのだ。
私は今でも『アフリカの印象』の世界から抜け出せない。通常の小説がどこか暑苦しく、内面への信仰で成立していることに耐えられないのである。天才ルーセルは私の読書を変えてしまった。そして、今後もとりついて離れないだろう。
いとうせいこう



