【報告】金子賢治<KOGEI>レクチャー・シリーズ第一弾
KOGEIと、未来の共感共同体「総合シンポジウム」
「現代工芸の創作の現場」を新しい視点からとらえていきたい。
ギャラリー册では、このテーマを長きに渡って、いろいろに探り続けています。2010年の展開に先駆けて、今回はレクチャラーとして東京国立近代美術館工芸課長の金子賢治さんをお招きし、「金子賢治<KOGEI>レクチャー・シリーズ(5回シリーズ)をスタートしました。
このシリーズは、金子さんのレクチャーや各界のゲストとのパネルディスカッションを通じて「現代工芸の可能性」「未来の芸術運動」、さらには「新しい感性を養うライフリテラシー」などについてお話しをいただきます。工芸に携わる方々だけなく、人生のなかで芸術や文化の楽しみや学びを深めたい方に広くご参加をいただけるシリーズです。ギャラリー册ならではの異業種交流的な、現代の大人のサロン研究会です。
12月5日(土)、第1回目の「総合シンポジウム KOGEIと、未来の共同体」を開催いたしました。今回は、パネリストに国立西洋美術館館長の青柳正規さん、武蔵野美術大学名誉教授の向井周太郎さんという斯界の泰斗をお迎えし、現代工芸について「歴史」や「デザイン」という側面からお話しいただきます。金子賢治さんにはスライドを使いながら日本の工芸の様相と、今後の可能性についてレクチャーいただきました。
当日はあいにくの雨模様にもかかわらず、定員を超える参加者で会場は溢れんばかりの大盛況でした。

シンポジウムの冒頭、当ギャラリーの顧問・キュレーターである新見隆からギャラリー册やアート・ビオトープ那須が行ってきた、学びあう共同体「山のシューレ」など、人生の愉しみかたを含めた共感共同体という野心的な試みを紹介いたしました。続いて、現代工芸を取り巻く環境の変化、デザインやコンテンポラリーなアートや工芸が近接している状況、日本人が持っていた表面の触覚性や感受性の見直し、アーツ&クラフトのようにものづくりによって新しい社会をつくりだす共同体概念への再評価、文化コンシャスな人々が増え「和」や「日本人の美意識」への興味の高まりなど挙げ、これからの日本の現代工芸の拡がりや可能性を各氏の立場からお話していただきたいと提起しました。

新見 隆(ギャラリー册顧問 武蔵野美術大学芸術文化学科教授)
これを受けて、青柳正規さんは日本の工芸の素晴らしさに触れられ、世界にある有名ブランドに勝るとも劣らない、それ以上の価値があると評価の見直しの必要性を語られます。
日本列島は、歴史的に文化的にも稀有な“豊かな自然環境”を持っていたからこそ、世界に類のない、縄文土器から現在のような造形性に優れた工芸を生み出してきたということ。また、ものや文化や生み出すには枠組みが必要で、戦後の日本はそれを崩してきたがバブル崩壊後はそれを見直し、文化の取り戻しを考えるようになってきた状況にあること。キーワードになるのは、これまでの思想や哲学といったものではなく、新見隆も触れた「共感共同体」といった、生活の質の充実を感じることであり、それを共有することが具体的な方策ではないか、そこにこそ日本の工芸の可能性があると仰います。
しかし一方では、日本の工芸は伝統性を持っているが故に時代性が浮かび上がってこず、その価値が見えにくいという課題もあると語られます。共感をもてるような解釈が必要で、工芸の世界を形づくってきた京都のような“里山文化”を見直し、それをナショナルスタンダードとして世界中にアピールしたいと考えていると結ばれました。

青柳正規さん(考古学、国立西洋美術館館長)
次に向井周太郎さんは、ご自身の、戦後のバウハウスといわれたウルム造形大学への留学体験からお話を始められました。留学では、それ以前に抱いていたバウハウス像は覆され、改めてバウハウス自体を遡行していったとご説明くださいました。
バウハウスはモダンデザインの基礎を確立しただけでなく、自然との関係、個人の感性と共同性、合理性と非合理性、近代と半近代、東洋と西洋など、多様に共存させていた対立項を統合しようとしていた近代プロジェクトではなかったか。そこに集う多彩な芸術家たち、クレー、カンディンスキー、シュレンマーなどが追い求めた独自の宇宙観や造型思考にも関心を寄せ、彼らがゲーテの宇宙論や色彩論につながり、自然との連帯性を持つ生態学的造型思考ともいうべき造型を発見していたと語られます。
また、バウハウスの教育プログラムの中核をなした、ヨハネス・イッテンの考えた予備授業「造型教育」は、デザインの基礎を学ぶものではなく、バウハウスが目指した最終的な建築(日常)と祝祭空間である舞台芸術(非日常)とを結びつける媒介ではなかったか。そして、バウハウスのデザインは、生成装置として考えられ、人間の根源的な全体を包むようなもので、その試みは「生」への全体的な問いかけではなかったかと、現代にとらえなおすべき価値を示唆されました。

向井周太郎さん(デザイン学、武蔵野美術大学名誉教授)
最後は、東京近代美術館工芸館の金子賢治先生によるスライドを使ってのレクチャーです。工芸の成り立ちから、新しい世紀の工芸のあり方までをわかりやすくご紹介いただきました。
日本の工芸は、江戸時代に各藩によって奨励されて、幕末や明治時代に手作りの産業として隆盛し、輸出工芸として発展してきました。その後、個人の作家の個性を表現する表現の工芸が生まれ、戦後は八木一夫たち(走泥社)による芸術運動などが起こり、現在の多様な工芸の成立へと育まれていきました。今、その工芸的造型の概念が変化していると仰います。伝統的な造形の工程と自由な発想をもって自分を表現しようとする作家の創造活動から、従来の造型論とは異質な新しいものがでてきているそうです。鍛金作家橋本真之の言葉「素材の理路、技法の理路」を挙げて、素材と向き合い続ける関係性の中から、新しい日本ならではの技法をもった工芸の誕生を教えてくださいました。
現在、新しい作家たちが素材、技法、陶芸、彫刻といったジャンルの境界を超えることによって、これまでとは異なる作品を続々と作り出している状況のなかで、これらに対応した新しい現代の工芸的造型論をつくりだしてゆくことが重要なこと、と力強く締めくくられました。

金子賢治さん(工芸史、東京国立近代美術館工芸課長)
シンポジウムが終わって先生方と受講者の皆さんとの歓談もにぎわいました。「とても、刺激的な内容でした」「工芸の歴史とその見方がわかって、とても勉強になりました」という感想から「高度な技術を駆使するクラフティーな仕事が、観る側を惹きつけると同時に美意識に変容をもたらす契機になっていると思います」「自分の創作活動にもヒントになりました。日本の都市文化の“型”が創作行為に影響を与えてきたという向井先生のお話は、考えさせられます」という専門的な声まで聞かれました。
第2部では、先生方を囲む交流会とお食事会が二期倶楽部広尾で行われ、工芸、芸術、文化などを語り合う楽しい時間が夜遅くまで続きました。ご参加をくださった皆さま、ありがとうございました。


【次回のおしらせ】
第二弾は新年早々の、1月23日(土)です。
金子先生による『近代工芸の歴史「工芸」と「Craft」をめぐって 陶芸を中心とした現代工芸論』のお話をいただく予定です。金子さんが初回のお話を踏まえて、さらに各論をレクチェーしてくださる予定です。
初回に参加できなかった皆さまも、ぜひこの機会にどうぞご参加ください。
金子賢治<KOGEI>レクチャー・シリーズ第二弾 KOGEIと、未来の共感共同体
テキスト:ギャラリー册・木下澄夫



