内田亜里 風景のディアスポラを撮る──済州島、壱岐・対馬、そして長崎

 

2022年11月11日(金)~12月9日(金)

会期中、12月3日(土)以外は、土・日 休廊

 

ゲニウス・ロキ(土地の魂)という建築用語は、今も廃れてはいないようだ。 私たちは、それぞれの場所や土地で固有の風や匂いを、身体中で感じてそれを持ち帰るから。
新進気鋭の写真作家である内田亜里は、韓国の南端の島、原始的信仰の残る済州島や、朝鮮と日本のどちらでも無いどちらでも有る、不可思議な歴史を生きてきた壱岐や対馬 、さらには、各地にキリシタンの殉教地があった長崎の離島を歩いた、そして、撮って来 た。
ディアスポラ(故郷喪失)とは、人間だけのことでなく、土地、その生き物そのものの有り様でもあった。
また、内田は昨今、日本の雁皮紙に焼きつけをやりながら、写真の起源へと遡り、その起源を問いながら仕事している。
「初めにあったものは何か?」「初めの風景とは何だったのか?」
そうしたなかにこそ、今日の私たちの風景への彷徨が、内田の写真の中で、それぞれの土地と写真の起源に交わるような、スリリングな気がするのである。
(新見隆 武蔵野美術大学教授)

 

「葬る山、斎く島」 内田亜里

韓国の済州島での撮影をきっかけに、古代から他国とのさまざまな交流の十字路として存在した長崎県対馬の撮影をここ12年ほど続けている。対馬は、九州と韓国の間の対馬海峡に位置し、韓国までは49.5kmと距離的にとても近い位置にある。島は細長く、周囲の海岸に切り立った崖はまるで人の往来を拒むかのように続いている。

今回の作品タイトル「葬る山、斎く島」は、対馬にある木坂という集落での物語から着想を得た。木坂集落は、海沿いに面したとても小さな集落である。そこには「イヅ山」と呼ばれる神々の世界の象徴である聖地の山と、「ホリ山」と呼ばれる死後の冥土とされる葬られる山、そしてその2つの山に挟まれるかのように人々の生前の現し世が存在している。かつて木坂はこの三分観の世界で構成されていたという。イヅとはイツクことであり、神を斎き沈める意で、ホリとは「葬り(はふり)」の意である。イヅ山もホリ山もどちらも勝手には入ってはならない聖地であるのだ。ホリ山は葬地であり、ここに喪家を営む風習もあったという。現在では、人家から一山超えた朝鮮海峡を望む岬に住民たちの墓地が静かに存在している。
人間が生まれ、生き、救済を求めてイヅ山の神々に願い、死後にホリ山に葬られるという世界がとても小さな集落の中で完璧な物語として存在したことは、私が対馬を長い間撮影し続けていた一つの、そして後押ししてくれた大切な物語となった。

対馬は、まだ国境の線引きが曖昧であった頃、マージナルな世界が海を舞台に繰り広げられていたという。その中心地が対馬でもあった。また、朝鮮で作られたかつての地図には、対馬が大きくそして無数の湾が詳細に克明に記されていたことは、いかに両者が親密であり、緊張と弛緩を繰り返しながら交流を続けてきたのかがよくわかる。国境の線引きが明確になるにつれ、そのマージナルな世界は排除されていったが、そのような親密な歴史を経た今の対馬に、多分に日本的なものと朝鮮的なものが内包されていると感じている。済州島での経験から対馬へ通うようになったことは私の中で非常に大きな一つの動きとなって、私自身がマージナルな視点を持ち今の対馬の風景を捉えていきたい。
今では目には見えないものとしてある歴史の残像が放つ僅かな光によって、一瞬に立ち上がる風景をネガに感光させ、印画したい。そう願いながら、私は作品を作っている。

写真:「葬る山、斎く島」2022年 プラチナプリント


内田亜里 Uchida Ali(写真家)

2001年東京造形大学デザイン1類写真コース卒業
2006年文化庁新進芸術家国内研修員(東京藝術大学写真センター)
2012年公益財団法人ポーラ美術振興財団在外研修員(インド)
2017年公益財団法人テルモ生命科学芸術財団助成(日本画材料による写真古典技法の研究)
2020年個展「葬る山、斎く島」(鎌倉ドゥローイングギャラリー)
2022年「伝えたい情景―木版画家・山岸主計と現代作家たち」(藤沢市アートスペース)ほか


内田亜里は、10年以上にわたり長崎県対馬を継続的に訪れ、民俗学なフィールドワークを下地に中判カメラによる写真撮影を続けている。最終的なプリントとして、写真古典技法であるプラチナプリントに日本画材料でもある箔や膠を融合させ、朝鮮半島との境界に根付く風景を独自の技法で表現している。

 


写真ワークショップ

「自然に向き合う、自然の魂を撮す」

講師:内田亜里、武蔵野美術大学学生有志
開催日時:12月3日(土)12:30〜15:00 (年齢制限無し、親子連れ歓迎)
参加費:一人600円(お茶付き)
持ち物:スマートフォン(写真を撮影します、動きやすい服装でどうぞ)
定員:10名
お申込み:ギャラリー册(03-3221-4220)

 

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