──シモーヌ・ヴェイユ
ここ数年で、もっとも刺激的で、もっとも五感をゆさぶる本。
著者の関⼝涼⼦さんは、翻訳家、詩⼈、作家としてめざましい活動をしていて、 この本もフランス語で出版されたものの邦訳です。
2018年にレバノンのベイルートを訪れ、961時間つまり四⼗⽇滞在。
戦争の記憶がのこる街で、⼈々に⾷べ物の話を聞き、つぎつぎと料理を⾷べます。いわば⾆によるフィールドノート。五感をそばだてたトラヴェローグです。
著者の滞在のあと、レバノンは反政府運動が勃発、ベイルート港爆発事故が起きます。この事故では、⼆⼗五万⼈から三⼗万以上の⼈々が家を失いました。本書は、レバノンに起きたカタストロフの「前夜」を描いた⽣々しいドキュメントとなりました。
著者は語っています── 「この本の使⽤法を正確に記すことは難しい。ただ、この本を料理本のように開いてほしいと望むほかない。」
当⽇は、著者の関⼝涼⼦さんと⾳楽・⽂化批評家の⼩沼純⼀さんとの対談に、主催側から⽂筆家の佐伯誠氏もくわわってのトークセッションとなります。トーク後は歓談のひと時をお楽しみいただきます。
text by saekimakoto
さっき『群像』に関口涼子の「ベイルート 961時間とそれにともなう321皿の料理」についての対談が載っているのを見つけて、カフェで一気に読んだところ。相手は藤原辰史、そうか、彼がいたか! と膝を叩いた。 このユニークな本についてはなにか文章に書いてみたいと思っていながら、どうにも手に余って、登攀をあきらめたクライマーの気分だった。
この本は、フランス語で書かれてフランスで刊行され、それを関口自身が日本語に翻訳したという複雑な迂回をした。 彼女の『カタストロフ前夜』(これもフランス語で書かれ、フランスで刊行された)に注目したベイ ルート国際作家協会から1ヶ月半(961時間)ほどの writer in residence と一冊の本の執筆を依頼された関口は、あえて料理について書くということを選んだ。
2019年、レバノンでは反政府運動が勃発、翌年にはベイルート港爆発という事故が起きて、ベイルートの街は大打撃を受けた。
関口は、2018年滞在だから、まさにカタストロフ前夜だった! しかし、そのきな臭さに知らぬふりをして、異郷の料理に、ひたすら耽溺する。 これは、舌と五感によって描かれた travelogue とも読めるが、 関口は、ヨーロッパのレシピは「経理士のレシピ」だと喝破して、詩や歌やアフォリズムによってレ シピを書こうと挑む。 おそらく、そこにこの詩人の野心があったのだろうが、その試みはみごとに成功している。
ベイルートの人は、明日はないという切迫した心情から、一皿の料理を賞味し、それに陶然とする。
それは、明日もやってくる国で、退屈凌ぎに美食に耽る(あるいは逃避する)グルメたちの食談義とはまるで異質の体験だ。
対談相手の藤原辰史の『縁食論』を読んで共感したと、関口が述べている。
1.「食と戦争」
2.「縁食と共食」
それに対して、藤原が答えるー 「僕が「縁食論」で書いたのは、まさに食べる場所を通じて社会を変革していくということです。」
聞き書きによる、ベイルートの人々の庶⺠列伝のようなもの、「言葉も物語も、あるいは料理も」消えてゆくはかないものだからこそ、 お互い交換したということが深く心に残る。付された沼野恭子の書評も的確で、この本の潜在力 potencialを穿つ深い読解だ。
ゲスト
1997年よりパリ在住、フランス語と日本語の二か国語で執筆を行う。アーティストとのコラボレーション、美術館でのイベント企画、食に関する文学コレクションの編集主幹、食文化をテーマにしたジャーナリスト活動など幅広く活動。 2012年フランス芸術文化勲章シュバリエ、2021年芸術文化勲章オフィシエ受章。2013−2014年イタリア、ローマのヴィラ・メディチ招聘アーティスト。
近著に『ベイルート961時間(とそれに伴う321皿の料理)』(講談社)、『カタストロフ前夜』(明石書店)、主な翻訳書にパトリック・シャモワゾー『素晴らしきソリボ』(河出書房新社、日本翻訳大賞受賞)、Nagori(P.O.L.、2018年、5か国語に翻訳)、L'appel des odeurs(P.O.L.2024年)
聴き手
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20世紀最大の詩人、といわれるユダヤ系ドイツの詩人ツェラン。ホロコースト(ナチスによる、ユダヤ人の大量虐殺)を生きのびてて、失った肉親や恋人への想いを、自らの肉体を切り刻むような言葉でつづり、セーヌ川に自死した。日本で初めての本格評伝を書いた、気鋭のツェラン研究者が、その全貌と今日的意味を、平明に語ります。
ゲスト
慶應義塾大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。京都大学博士(文学)。現在、明治大学教授。専門は近現代ドイツ抒情詩、ドイツ・ユダヤ文学、比較文学。主な著書に、『パウル・ツェランとユダヤの傷―〈間テクスト性〉研究』、『翼ある夜 ツェランとキーファー』など。『空の飛びかた』をはじめ絵本の翻訳もある。
現代美術作家、近作には特にツェランや原民喜など、20世紀の歴史的深層をテーマにした絵画に挑戦している。
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タイと日本、それぞれの国と文化を敬愛する2人のアーティストが、「色」をめぐる物語を紡いだ短篇小説集。日本とタイの色彩からそれぞれ2色がテーマとして選ばれ、共通のテーマとして色であって色ではない色である「白」(白練色、Ghost white)を加えた、色と言葉をめぐるシュールな小説。
7月の一册会は、七夕特別企画としてギャラリー册にてお届けします(開催日は7月6日)。取り上げる一冊は「色 Colors 」三山桂依・プラープダー・ユン著(芸術新聞社、2013)。当日は、著者の三山桂依=ミヤケマイさんにお話いただきます。
トーク後は『ミシュランガイド東京』で一ツ星を獲得した女性料理人山﨑美香さん営む江戸料理の名店、神楽坂「山さき」の美しいお弁当とともに歓談のひと時をお楽しみいただきます。
ゲスト
横浜市生まれ。青山学院大学文学部 英米文学科卒業。詩と小説の間をたゆたう言葉で紡いだ季節ごとの12篇を収めた短編集「おやすみなさい。良い夢を。」(講談社 2011)でデビュー。独自の透明な感覚で世界を見つめる。湿度や手触りを視覚的な言葉であざやかに表現し、日常の狭間へと読者を誘う。
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20世紀前衛音楽の研究者、音楽学者白石さんが、あの大問題児、革命児ジョン・ケー ジについて語ります。
有名で名前は知っているが、どこが重要で何が面白いかよく分からない感じのあった、 巨匠の秘密がまさに開陳されます。どうか皆さんで一緒に楽しく、耳傾けましょう。 後半は、昨年9月に登場くださった音の作家、現代アートの藤本由紀夫さんが特別出演 、お二人の対談になります。「ケージから藤本由紀夫を感じる、考える」。
ゲスト
専門はジョン・ケージを中心とした20世紀音楽、日本や世界の現代音楽。主な著書に、『ジョン・ケージ 混沌ではなくアナーキー』(武蔵野美術大学出版局 2009年)。同書で第20回吉田秀和賞受賞。『すべての音に祝福を ジョン・ケージ5の言葉』(アルテス・パブリッシング2019年)など多数。音楽会の企画や、各紙で演奏評など批評家としても活躍。
80年代半ばからサウンド・オブジェの制作を行う。個展(国立国際美術館、名古屋市美術館)や、ヴェネチア・ビエンナーレ参加など多数。西宮市大谷記念美術館で「美術館の遠足」を10年間行う。「屋上の耳」や枯葉をしいた部屋など多彩な作品を発表。
開催日時
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デザイン史に大きな足跡を残したドイツの美術学校バウハウスは、1919年に創設され、1933年に閉校するまで、美術・建築・デザインの分野で大きな足跡を残しました。閉校後も世界各地でバウハウスの教育が受け継がれ、100年以上経った現在でも芸術界に多大な影響を及ぼしています。
今回の一册会で取り上げるのは、バウハウス関連書100冊を紐解き、バウハウスの歴史100 年とその影響について紹介された『BAUHAUS HUNDRED 1919‒2019 バウハウス百年百図譜 』。
バウハウス100年の旅の思考や視点の変化とともに、40年近くに渡り断片的に発表された文章に大幅な加筆修正を加え、綴られた本書をテーマに著者である伊藤俊治さんにお話を伺います。
ゲスト
東京藝術大学名誉教授。多摩美大学客員教授。東京大学文学部美術史学科卒業、同大学大学院人文科学研究科美術史専攻修士課程修了。専門の美術史・写真史の枠を越え、アートとサイエンス、テクノロジーが交差する視点から多角的な評論活動のほか、展覧会の企画・キュレーションも行う。著書に『写真都市』(冬樹社)、『ジオラマ論』(リブロポート、ちくま学芸文庫)『愛の衣裳』(ちくま書房)、『電子美術論』(NTT出版)、『バリ島芸術をつくった男』(平凡社)ほか、新著に『陶酔映像論』(青土社)がある。
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スティーブ・ジョブスのスピーチにも登場する、エコ関連団体を立ち上げ、環境保護論者の大物としても知られるスチュアート・ブランド。スタンフォード大学で、生物学を学び、1968年に創刊した雑誌『ホール・アース・カタログ』は、全米150万部のベストセラーとなり、カウンター・カルチャーのバイブルになったとも言われています。2月は、カウンター・カルチャーを生きて来た能勢伊勢雄さんをゲストに、スチュアート・ブランドがまとめた一冊、『地球の論点』を取り上げます。2021年12月末に発行予定の『Spectator』最新号とつなげ「自然」という内容に改めて迫ります。
ゲスト
1947年生まれ。写真家。前衛映像作家。音楽・美術評論家(批評)。現代美術展企画等。さまざまな表現の交錯する場として、1974年に老舗 Live House「PEPPERLAND」を設立。松岡正剛氏のオブジェクトマガジン『遊』に70年代から参画。阿木譲編集の『ロック・マガジン』の編集やライターを務めた。⻑年にわたる脱領域的、学際的なすべてが、岡山市・倉敷市連携文化事業『スペクタクル能勢伊勢雄 1968-2004』展にて、広く紹介された。展覧会では水戶芸術館『X-COLOR グラフィティ in Japan』企画、大分県立美術館『OPAM×能勢伊勢雄 シアター・イン・ミュージアム』企画・監修・出品…多数。出版物は『新・音楽の解読 -ダダ/インダストリアル/神秘主義/ハウス/ドローンまで、誰も知らない音楽史-』(DU BOOKS)、『スペクタル能勢伊勢雄 1968-2004』(和光出版)、写真集『ISEO NOSE:MORPHOLOGY 能勢伊勢雄:形態学』(赤々舎)…多数。2018年福武教育文化財団より「福武文化賞」受賞。2019年慶應義塾大学アート・センターに作品収蔵。
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「私が好きなのは旅です。交通機関を使って点と点とを結ぶ「旅行」よりも、道を塗りつぶすようにして、たらたら、たらたら歩く「旅」が好きなのです。旅はその途中で「なにか」と出会うからです。
それは、ふつうには目には見えない「なにか」です。見えないなにかを探したり、見えないなにかを見たりするのが好きなのです」―「はじめに」より引用
世界各地を旅しながら、そのなかで「目を使わないで」見た、土地や場所に隠された意味について、アートビオトープの「山のシューレ」開き舞台などでお馴染みの能楽師の安田登さんが、時空を超えた精神の旅へといざないます。
ゲスト
1956年千葉県銚子市生まれ。 高校時代、麻雀とポーカーをきっかけに甲骨文字と中国古代哲学への関心に目覚める。能楽師のワキ方として活躍するかたわら、『論語』などを学ぶ寺子屋「遊学塾」を、東京(広尾)を中心に全国各地で開催する。現在、関西大学特任教授。 著書に『あわいの力 「心の時代」の次を生きる』、シリーズ・コーヒーと一冊『イナンナの冥界下り』(ともにミシマ社)、『能 650年続いた仕掛けとは』(新潮新書)、『あわいの時代の『論語』 ヒューマン2.0』(春秋社)、『野の古典』(紀伊國屋書店)など多数。
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定員に達したため、申し込みを終了いたしました。
明治から130年以上にわたって研究され、いまだ正体不明の「土偶」の研究に独立研究者として挑んできた竹倉さん。これまでの研究では、土偶は「妊娠した女性を表現したもの」と考えられてきましたが、竹倉さんはそれを植物や貝の精霊をかたどったものとする説を提唱されています。
考古学の研究に人類学から新たなアプローチを加えた本書は大変な話題となり、発売後わずか3ヶ月で2万部を超える売上となりました。 考古学に限らず、認知のフレームを変えて世界を見つめ直すことは、豊かな生活のサプリメントになるものと言えるでしょう。竹倉さんの視点やアプローチから、知のありよう、クオリティ・オブ・ライフを考えるヒントまで、話題の尽きない会となりそうです。
ゲスト
独立研究者として大学講師の他、講演や執筆活動などを行う。武蔵野美術大学映像学科を中退後、東京大学文学部宗教学・宗教史学科卒業。2019年、東京工業大学大学院社会理工学研究科価値システム専攻博士課程満期退学。人類の普遍的心性を追求すべく世界各地の神話や儀礼を渉猟する過程で、縄文土偶の研究に着手することになった。著書に「輪廻転生―<私>をつなぐ生まれ変わりの物語」(講談社現代新書、2015)など。2021年サントリー学芸賞受賞。
開催日時
参加費
工芸と、美術(アート)は、どこが同じでどこが違う、のだろう。メディアでも話題になる、今現在の日本の手仕事や世界のものづくりは、これからどうなるのだろうか。日常に親しまれ愛されている工芸には面白い、素朴な疑問や興味がつきまとう。社会の動きや文化史から、広い視野で作品を見て来たユニークな美術史家に、その要諦を自由にきいてみませんか。
ゲスト
東京生まれ。東京都庭園美術館館長。長く東京国立近代美術館工芸館で、研究官を勤める。以降、京都工芸繊維大学大学助教授、秋田公立美術大学学長などを歴任。武蔵野美術大学客員教授。専門は、社会文化史としての工芸、近代デザイン史、アール・デコ。「工芸の領分-工芸には生活感情が封印されている」、『アジアン・インパクト 日本近代美術の「東洋憧憬」』など著書多数。
開催日時
20世紀最大の総合芸術運動、といえる「バレエ・リュス」(ロシア・バレエ 団)。大プロデューサー、ディアギレフに率いられた新しいバレエ団は、パリをスキャンダラスに席巻。ストラヴィンスキーの音楽、コクトーの台本、ニジンスキーの踊り、ピカソやマチス、そしてロシアきっての美術家たち。永遠の伝説を、楽しく、分かりやすく、現代に照らして語る。
ゲスト
東京生まれ、ベルギー、鎌倉育ち。日本でも数少ないバレエの専門研究をすすめる一方、バレエ関係のキュレーションや、京都の祭りの本や、宝塚やダンスの企画にかかわるなど、舞台芸術全般にわたる幅広い活動を意欲的におこなっている。https://naokohaga.com
開催日時
現代日本を代表する美術家、「音の空間」のコンセプチュアル・アーティスト藤本由紀夫。当代のマルセル・デュシャンともいえる藤本がその出発点を十七世紀イエズス会神父にして、未来のテクノロジーを暗示した神秘科学者、キルヒャーに辿りながら、魅惑に満ちた自作、世界の面白い受け止め方を語る。
ゲスト
1950年、愛知県生まれ。70年代にエレクトロニクスを使ったパフォーマンス、インスタレーションを展開、80年代半ばからサウンド・オブジェの制作を行う。内外の主要美術館での個展(国立国際美術館、名古屋市美術館)や、ヴェネチア・ビエンナーレの参加など多数。西宮市大谷記念美術館での、たった一日のイヴェント伝説の「美術館の遠足」を10年間行う。名作「屋上の耳」やオルゴールを埋め込んだオブジェ、枯葉をしいた部屋、匂いの空間、など多彩な作品を発表している。
開催日時
木造建築に、未来への活路を見出して、世界各地でのフィールドワークをもとに、森や自然と人間の新しい関係を提案しているユニークな建築家に話をききます。人類は、光合成のリズム=森のリズムから逸脱した生活を送るようになっているのではないか。現代人の身体や精神の不調を考え、芸術、医学、林業など広く、新しいウェルビーイングありようを探る。
ゲスト
建築家。木造建築研究。エコロジーな住宅、環境に優しい設計を追求し「月的寓居」シリーズを発表。森林共生住宅を提唱し、森林環境を住居に写し取る究極の木の家づくりを探求する。
開催日時
社会の抑圧や不幸を真っ向から凝視した伝説の神秘哲学者。第二次大戦前に自死を選んだ彼女の、徹底した純粋さ「宇宙と合体する、愛と美の思想」とは何か。映画「千の千尋の神隠し」で読み解く新しくも、面白いヴェイユ像。
ゲスト
思想史・芸術倫理学。東京生まれ。フランス・ポワチエ大学、京都大学、一橋大学に学ぶ。学術博士。『シモーヌ・ヴェイユ アンソロジー』(河出文庫)、『神を待ちのぞむ』(須賀敦子の本棚8、河出書房新社など、訳書多数。
開催日時
20世紀を代表する彫刻家。21世紀の芸術体験を示唆したノグチ。日本、アメリカに引き裂かれながら、グローバルに異文化を調停した。新しい「自然、身体、異文化」の庭とは、何か。「今、何故、ノグチか」を平明に語る。
ゲスト
1958年広島県生まれ。キュレーター。武蔵野美術大学教授。イサム・ノグチ庭園美術館学芸顧問。元大分県立美術館館長。『イサム・ノグチ 庭の芸術への旅』(武蔵野美術大学出版局)他。
開催日時
50% Complete
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